二十四節気では「啓蟄」の頃──、
一雨ごとに寒さがやわらぎ、陽射しも春めいてきます。

啓蟄とは、土の中で冬ごもりをしていた虫たちが、
春の気配に目覚めて動き出す頃のこと。
恵みの雨が大地を潤し、植物の息吹も強まっていきます。

早咲きの桜の便りが聞かれるようになるのもこの時季。
古来より日本人は桜を愛で、
その儚い美しさに心を寄せてきました。

桜といえば「ソメイヨシノ」ですが、
かつては、野生の「山桜」のことを指しました。
山桜は、春になると樹皮が艷やかに潤い始め、芽がふくらみ、
開花と同時にやわらかな若葉が萌え出すのが特徴です。
若葉の色は花の色と通じており、
葉が緑なら花は清々しい白色、赤みがかっていれば薄紅色と、
素朴ながらも一樹一樹で趣が異なります。
山を覆うように重なり合い可憐に咲くその姿は、
多くの歌人に愛され、詩歌に詠まれてきました。

桜の時季の風物詩である「桜餅」は、
ほんのりと塩気のある桜葉で餡入りの餅を包んだ菓子。
関東と関西ではその姿や味わいが異なり、
関東では薄く焼いた小麦粉生地で餡を巻いたものを「長明寺」、
関西では道明寺粉の餅生地で餡を包んだものを「道明寺」と呼び、
どちらも古くから親しまれています。

目で見て愉しみ、舌で味わい、
そして春の訪れを華やかに寿ぐ──。
自然の息吹を映した菓子には、
季節の移ろいを慈しむ日本の心が息づいています。