春彼岸

二十四節気では「春分」の頃──、
日ごとに暖かくなり、こぶしや木蓮の花が咲き始めます。

春分とは、昼と夜の長さがほぼ等しくなる日のこと。
“自然をたたえ、生物をいつくしむ日”として、
国民の祝日に定められています。

三月十八日は、春の彼岸入り。
墓参りをして、仏壇に花やぼた餅を供えるなど、
先祖を偲ぶ慣わしとして親しまれています。

彼岸は年二回あり、春分と秋分の日を中日とした七日間。
彼岸とは、“向こう岸”を意味する仏教用語で、
この世のさまざまな苦しみや煩悩を越えて到達する“悟りの境地”のこと。
これに対して、煩悩に満ちた現世は「此岸(しがん)」と呼ばれます。
彼岸は西、此岸は東にあるとされることから、
太陽が真東から昇って真西に沈む春分と秋分の日は、
彼岸と此岸が最も通じやすくなると考えられ、
先祖供養が行われるようになりました。
彼岸の行事は日本独自のもので、正式には「彼岸会(ひがんえ)」と言います。
彼岸は種蒔きや収穫期とも重なるため、
自らの暮らしを見つめて自然への感謝を捧げる、
仏道精進の期間という意味合いもあります。

春彼岸の供え物として欠かせない「ぼた餅」は、
この時季に見頃を迎える、牡丹の花に見立てた菓子。
餅と餡を重ねることで、先祖と自らの心を合わせるという意味もあるのだとか。
餅は五穀豊穣を表し、小豆の赤色は邪気を祓うとされることから、
無病息災の願いが込められています。
同じ菓子でも、秋彼岸には「おはぎ」と呼ばれ、
地域によっては、収穫したてのやわらかな小豆でつくるおはぎは粒餡、
ひと冬を越した皮の硬い小豆を使うぼた餅はこし餡と
分けるところもあるそうです。

先祖を敬い、自然へと思いを馳せる彼岸の慣わし。
自らとも心静かに向き合う大切な期間です。