神嘗祭

二十四節気では「寒露」の頃──、
秋風にのって金木犀の甘い香りが漂い始めます。

寒露とは、冷気によって露が凍る頃のこと。
野草に宿る冷たい露そのものを指す言葉でもあります。

稲穂が黄金色に色づき、収穫期を迎えるこの時季。
毎年十月十五日から十七日にかけて、
新穀を供えて五穀豊穣に感謝を捧げる神事
「神嘗祭(かんなめさい)」が執り行われます。

神嘗祭は伊勢神宮および宮中にて行われる収穫祭のひとつ。
神嘗の「嘗」には「もてなす、ご馳走する」という意味があり、
その年初めて収穫した新穀を天照大御神に供え、
一年の豊かな実りに感謝を捧げます。
伊勢神宮においては最も重要な神事とされ、
これを機に装束や祭具を一新することから、
「神嘗正月(かんなめしょうがつ)」とも呼ばれています。

伊勢神宮では、数日にわたってさまざまな儀式が行われますが、
なかでも重要なのが「由貴大御饌(ゆきのおおみけ)」の儀。
神宮の杜が夜闇の静寂に包まれる午後十時と翌午前二時、
かがり火の薄明かりのもと祭主をはじめ神職たちがお祓いをし、
新穀を神様に供進する神聖な儀式です。
神饌(しんせん)と呼ばれる神に献上する食事として、
新米や神酒のほか、鮑や伊勢海老、鮎、柿、大根など、
三十種以上の豪勢な海山の幸が供えられるのだとか。
宮中では、十月十七日に天皇が皇居内の神殿にて神宮を遥拝され、
収穫の感謝と国民の安寧を祈られます。
神嘗祭のおよそひと月後には、神様とともに天皇が新穀を召し上がる
「新嘗祭(にいなめさい)」という神事も。
かつてはこの一連の儀式が終わるまでは、
神職だけでなく庶民も新穀を口にしない物忌みの期間とされたそうです。

古来日本人の命の糧となってきた米や穀物などの自然の恵み。
神嘗祭の慣わしには、自然への感謝と畏敬の念を忘れない
古の人びとの慎ましやかな心が息づいています。